【第5回】論理思考のツールは役に立たないのか?
「問題解決」について以下のような話しをよくうかがいます。「よくある論理思考に関連するツールを紹介する研修やセミナーに参加しても、あるいは、あらゆる問題解決のためのツールが網羅されているガイドブックを読んでも、普段の問題解決の場面でうまく使えるような気がしないです。書いてあることはよくわかるし、そうすればうまくいくことは充分わかるんですが・・」
世の中にたくさん存在する、論理思考のツールは役に立たないのでしょうか?
答えから申し上げれば、普段の仕事の問題解決の場面で役に立てるためには、どんなにそのツールが優秀であったとしても、そのツールを使いこなすための能力が必要。その能力とは、問題解決に求められる感性、というのが私の意見です。
問題解決になぜ感性が求められるのでしょうか?
論理思考(ロジカルシンキング)で一般的に解説されるプロセスを大きく3つに分けると、以下の3つの大きな流れに分けることができます。
- 問題を捉える
- 問題解決の仮説を立てる
- 仮説を検証する
上記3つの問題解決プロセスは、問題解決のプロセスをこれ以上分解することができない、本当に必要なプロセスだけが抽出された構成です。そして、その段階通りに思考することで、日常的な些細な判断から、経営にかかわる大きな決断といったあらゆるレベルの意思決定に活用できると考えます。優秀なリーダーほど、上記のようなシンプルな考え方を用いて日々の問題解決を行っているという実践例を、書籍などで良く目にします。
そうであるならば、誰でも上記プロセスで問題解決ができているはずです。しかし、日常的な問題解決の現場では、そう簡単に1〜3のプロセスを進めて行くことが難しいものです。それはなぜでしょう。それは、第1のプロセスである「問題を捉える」にあります。端的に言えば、うまく問題解決できない理由のほとんどは、正しく「問題を捉える」ことができていないことにその原因があります。
論理思考関連の研修では、例題として企業の中で起こりそうな問題が示され、受講者はそれに関する情報(状況設定)を基に学習を進めていくケースが多いと思われます。これはガイドブックでも同様でしょう。しかし、実際の仕事の現場では、研修のように目の前に問題が提示されることはあり得ません。
これが問題だ!という事実(目に見える確証的な真実)は存在しないので、問題を抽出するためには、刻々と変化していく状況の中で、明らかになっていない問題に『気づく』ところからはじめなくてはならないのです。したがって、「問題を捉える」というプロセスは、問題を感じ取る人間の五感、すなわち感じ取る力(感性)がなければ進めることはできません。
こうして、「問題解決に感性が必要」になります。

問題解決には感性が必要
ドラッカーは著書『新しい現実』の中で、新しい時代においてマネージャーが直面する問題に対処していくためには「分析とともに知覚的な認識(Perceptions)が必要だ」と記しています。Perceptionを英英辞典で調べると、次のように表されています。
The ability to see, listen, or become aware of something through the senses.
ドラッカーは、論理的な分析力とともに、見る、聴く、感じるといったきわめて人間的な感性が重要である、と主張しています。このドラッカーの主張は、冒頭にお話した、普段の仕事の問題解決の場面で、問題解決のためのツールを役に立つものにするためには、問題解決に求められる感性が必要であるという主張と大きく重なります。
感性を豊かにすること、すなわち、五感を磨くことは、グーグルやツイッター、フェイスブックに代表されるような多彩な情報源を持つだけでは実現できません。確かに、頭上にアンテナを高く掲げ、多様な情報を得ることは大切です。しかし、それ以上に大切なのは、それらの情報、あるいは、自分の目の前にある事象から、微かな兆しを感じ取る力を持つことです。
それらの情報・事象の中に危険信号や問題解決のヒントが含まれていたとしても、それを感知できなければ、それを問題として捉えることができなければ、本当の問題解決に近づいていくことはできないのです。問題解決のツール(アプリケーション)を使いこなすために、アプリケーション動作の基礎となる「感性を磨く」ことからはじめましょう。
次回は、自分の感情に意識を向けることによってコミュニケーションの質は大きく変わる!ということについてお話したいと思います。
<ポイント>
セルフコンセプトのポイント(12)問題解決には感性が必要だ
セルフコンセプトのポイント(13)問題に気づき捉えていくために、微かな兆しを感じとる五感に基づく感覚を養う必要がある
本記事は、最上雄太著 『セルフコンセプト』(2012)の内容を当コラム向けに新たに加筆・修正を行っています。当記事および最上雄太著 『セルフコンセプト』(2012)の無断複写(コピー)は著作権での例外を除き禁じられています
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- この記事を書いたのは最上 雄太です。
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