

さて、ここでは以上の議論を踏まえて、リーダーシップの発揮プロセスについて明らかにする。
従来のリーダーシップ理論研究における「リーダーシップ行動」とは、リーダー行動を測定する尺度を作成するといった目的を満たすために可視化が可能でありかつ第3者が観察することができるリーダーの直接行動を指していた。しかし、感情コンピテンス理論に立脚すれば、「リーダーシップは発揮されるまでに前段階が存在し、源泉として自己認識の醸成といった、ごく個人的コンピテンスである特性の発揮が必要であり、それを基点にしてフォロアーとの相互信頼関係を醸成させたうえで、その有効性が顕在化する」というリーダーシップ発揮プロセスの存在を説明できることになる。以上の内容を素描すると、図表 4のようになる。
図表 4は、2で述べた「感情コンピテンスは、自己認識を基底とした階層構造」であること、そして前述の「リーダーシップ行動は、感情コンピテンスにおける社会的スキルである」という議論に基づき、筆者が作図したものである。横軸がリーダーシップ発揮のプロセスを示し、縦軸がそのプロセスが醸成される場所や状況を示している。
この図は、これまでリーダーシップと認知されてきた行動、つまりリーダーシップ行動とは、リーダーシップ発揮のプロセスの中の最終的な表出部分であることを明示している。同時に、リーダーシップを発揮するためには、リーダーとフォロアーの信頼感の醸成が不可欠であること、そして源泉としてリーダー自身の自己認識という感情コンピテンスが存在していることがわかる。この図から求められるひとつの解は、リーダーシップには自己認識という源泉が存在するということである。
リーダーシップの源泉の存在は、リーダーシップの認識に、以下の3つの事実を明示することとなる。
第1に、リーダーシップは自己認識を源泉として、リーダーとフォロアー相互の信頼関係を醸成させることにより、結果的に表出する現象である。リーダーシップは、自己認識というリーダーシップ源泉の発揮の成果であることから、源泉が欠如している状況で表面的な行動をかたちづくってもリーダーシップの効果性を発揮しているとはいえないのである。
第2に、リーダーシップ源泉の存在は、リーダーシップに求められる特性、および開発の指針を明示することになる。そして、この源泉は、自己認識因子に求められる。つまり、リーダーは自己認識因子に貢献する感情コンピテンス群の開発を行うことにより、リーダーシップの有効性を高めることが可能になる。
第3に、リーダーシップはだれでも開発可能であることを明示している。しかも感情コンピテンス理論によれば、すべてのコンピテンスは老若男女、年齢を問わず開発可能である 。*14
*13 心理学者のジョン・メイヤーは、「EQは、年齢を増すとともに、また子供から大人にいたるまでの経験を増すに従って開発される」と結論している。つまり、感情コンピテンスの向上についても成熟した人たちのほうが優位性を示すのである。これは大変興味深い事実である。