
さて、自己認識因子は、すべてのEQのベースとなるもっとも重要なものである。われわれの行動がどのような影響を及ぼしているかを認識する能力は、基本的かつ重要なEQ因子である。残る4つのEQ因子は、この自己認識因子を基底として、図表 2に示すように、階層構造をなしている。
EQの基底となるこの能力に欠ける場合には、たとえば感情により思考がかき乱され、自分を見失う危険にさらされることになる。したがって、この能力は、それぞれの職務上の業績のために自らを適合させつだけでなく、さらに特にリーダーシップやチームワークに不可欠な、対人関係的なスキルを向上させていく際に有効なものである*10 。このスキルは、「心の方向舵」とも呼ばれ、焦点を絞り込むための能力ともいえる。

そして、この自己認識因子に基づき、自己統制因子と共感力因子が効果を発揮することになる。自己統制とは、自己の感情のコントロールを司るEQ因子である。そして、自己のいまの感情の状態を把握できなければ、その制御は不可能であることを考えれば、自己認識に基づく能力であることは容易に理解できる。
また、共感性を生む前提条件とは、みずからの体の中では、とくに腹の底で感じ取感情からの信号を読みとる自己認識因子にほかならない*11 。ほかの人がそれを言葉にしなくとも、その人がどのように感じているかを感得する能力こそ、共感力の中核をなす能力である。
しかしながら、ほかの人たちが自分の感じていることを言葉で表すことはむしろまれであり、ほとんどの場合、その音声、顔の表情、その他の非言語的な手段を通じて感情を表明する。このような微妙な心の動きの伝達を感じとる能力は、自己認識の発揮のうえに築きあげられるものである。もちろん、共感力を発揮するためには、自己統制といった基本的コンピテンスにさらに相互に影響を与え合うことになる。
われわれの「内なる動因」と呼ばれるモチベーションは、その動因の源泉は脳内物質に影響を受けていることがわかってきた*12が、その内実は実は解明されていない。しかし、自分の求めている機会の方向に向けてわれわれの認識を導くことであると理解され、これも自己認識と密接な関係がある。
また、不確実な目標に対して自分をモチベートさせていくためには、感情のコントロールすなわち自己統制は必要不可欠である。くわえて、自己統制に含まれる「信頼性」と「誠実さ」は、モチベーションに大きく貢献することが認められる。
このように、自己認識因子を基点にして、自己統制因子とモチベーション因子、そして共感性因子の発揮を援助するという構造の最上位に「社会的スキル因子」が成り立っている。つまり、前述のように社会的スキルは、EQのほかの因子の頂点にあるともいえる。自分の感情を理解し、コントロールして、他者の感情に共感できれば、非常に効果的に人間関係もマネジメントできるであろう。動機づけによっても社会的スキルは高まる。つまり、社会的スキルは、他のEQの因子がもたらす結果なのである。
*10 ダニエル・ゴールマン (2000) 前掲書 p.87.
*11 ダニエル・ゴールマン (2000) 前掲書 p.227.
*12 ダニエル・ゴールマン (2000) 前掲書 p.227.